「ねえ秀樹、保険ってどうする?」 「まあ行けば何とかなるんじゃない?足りなければ現地のコンビニで買えばいいよ」 「そうだよね、なんとかなるよね!」
この二人、蜜月気分はわかるが、少しだけ話を聞いてほしい。マダガスカルは比較的安全な旅行先だ。ライオンもヒョウもいない。凶暴なバッファローもいない。それは本当のことだ。しかし「比較的安全」と「何もない」は別の話である。
水辺でラブラブはやめてほしい
「恵理子、この川きれいじゃない?泳いでみようよ」 待て秀樹。
ナイルワニは体長5メートルを超えることもあり、人間を見ても怯まず、挑発なしに攻撃してくる。川のほとりで二人でたたずむ絵面は美しいが、特に早朝と夕暮れ時が最も危険で、指定外の場所では泳がないことが鉄則だ。新婚初日にワニのお腹の中というのは、どんなロマンチックな映画でも描かれていない結末だ。

夜、靴を履く前に一呼吸
「秀樹おはよう、今日もトレッキングだね!」 「そうそう、靴どこだっけ——」 恵理子、一旦止めて。
マダガスカルには約70種のサソリが生息しており、体長30cmに達するムカデは激しい痛み・吐き気・嘔吐を引き起こす毒を持つ。どちらも夜行性で、地面に置きっぱなしにした靴や荷物の中に入り込む。朝イチで「ぎゃあ!」と叫ぶのは秀樹でも恵理子でも困る。靴は毎朝、必ず中を確認してから履くこと。これは習慣にしてほしい。

寝室でも油断しないこと
「ねえ恵理子、このロッジ素敵だね」 「うん、でもなんか暗くて怖いな……」 その直感は正しい。
マダガスカルのクロゴケグモは独特の毒素を持ち、咬まれると死に至る可能性がある。暗くて人気のない場所を好む。ヴァイオリンスパイダーは寝具や衣類に紛れ込み、誤って体に押しつけられたときに咬む。農村部では就寝前に寝具と衣類を必ず確認すること。新婚旅行の朝に壊死性の皮膚病変で病院、というのは避けたい。
最大の敵は見えない
「蚊くらい平気でしょ、かゆいだけだし」 秀樹、それが一番危ない。
マダガスカルには23種の蚊が生息し、マラリアを媒介するアノフェレス属や西ナイル熱を媒介する種がいる。ワニより蚊の方がはるかに多くの人間に被害を与えている。DEETを含む虫除けスプレー、長袖・長ズボン、就寝時の蚊帳は絶対に省略してはいけない。そして出発前のマラリア予防薬も必須だ。コンビニでは売っていない。
その木の実、食べちゃダメ
「わあ、きれいな実がなってる。食べてみようか」 恵理子、待ってくれ。
マダガスカルのタンゲナという植物は、種子に強力な心臓毒性の成分を含む。かつてこの毒は「神裁き」に使われ、毎年中央高原の人口の約2%が死亡していたと推計されている。見た目は普通の熱帯植物で素人には判別できない。知らない木の実・種子は絶対に口にしないこと。ジャングルはビュッフェではない。

しかし、これだけは言っておきたい
ここまで読んで「怖くて行けない」と思ったとしたら、それは伝わりすぎだ。マダガスカルは世界でも類を見ない生態系の宝庫で、固有種の動植物が溢れ、バオバブの並木道は息をのむほど美しい。
毎年30万人の旅行者が訪れ、大半は何事もなく旅を終えている。国立公園や保護区は整備されており、ガイドとともに行動すれば非常に安全だ。靴の中を確認する、虫除けをちゃんと塗る、川で泳がない、知らない実は食べない——それだけのことで大半のリスクは消える。
秀樹と恵理子には、しっかり準備をして、素晴らしい新婚旅行にしてほしい。保険は出発前に、ちゃんとしたものを入れておくこと。コンビニでは、本当に売っていないから。

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