世の中にはいろんなバンドがある。
武道館を満員にするバンド、フェスのヘッドライナーを張るバンド、サブスクで億再生されるバンド。
トコブシーズはそのどれでもない。
平成のマリア・カラス、小島助六
ボーカルの小島助六は「平成の男マリア・カラス」と呼ばれている。
マリア・カラスといえば20世紀最高のオペラ歌手だ。その名を平成の男に冠するのだから、周囲の期待値がどのくらいかは想像がつく。
小島がステージに立つと、最初の一声で空気が変わる。 と、ファンは言う。
職人、達磨氏と器用貧乏の三木
ドラムの達磨氏は、職人芸という言葉がよく似合う。派手なソロはない。目立つプレイもしない。
ただ、達磨氏が叩いていると、バンド全体が揺れる。土台というより、心臓に近い。
キーボードの三木は、ハーモニカもモッキンバードもサックスも弾く。吹く。叩く。なんでもやる。
本人は「器用貧乏なんですよ」と言う。しかし三木の場合、何でも空気に合わせて最適な音を選べる、ということだ。
新潟公演、舞台袖から湯気が出た
新潟でのコンサートのことだ。 演奏の途中、舞台袖からもうもうと湯気が上がり始めた。客席がざわついた。
なんと、かまどで米を炊いていたのだ。古米だが、丁重に炊き上げた本物のご飯だ。
三木がおにぎりを握り始めた。ハーモニカもサックスも吹く手が、今度は米を握っている。
塩加減が絶妙だったと、その日の客は口を揃えて言う。 お腹がいっぱいになったあと、新曲「佐渡OKさ」の大合唱が始まった。
涙あり、笑いあり、腹いっぱい、そして興奮あり。 これがトコブシーズのコンサートだ。
盛り上げ上手なトコブシーズ
トコブシーズは群衆の心理をコントロールする能力に長けています。
まだファンが定着しきっていない頃のトコブシーズは、米沢市で行われたコンサートで、刺激的な演出によってファンの心を鷲掴みにしている。
米沢市でのコンサートは小さな会場で行われました。 コンサート開始時間を過ぎても一向にステージにトコブシーズは現れません。
しばらく様子を見ていた観客も10分が経過した頃に徐々に我慢できなくなり、「おい、まだかー!」「どうなってるんだ、説明しろ!」と怒号が飛び始める。
次第にそれはエスカレートして、会場は凄まじい罵声が飛び交う事態に。
逆転のサプライズ
ところがその中で1本だけ透き通った美しい「ふざけるな、出てこいトコブシーズ~!」という罵声が観客の耳に入った。
観客らは「何今の美しい声?」と拍子抜け。
するとステージに「オラたちはここに1時間前からいるよ~」と書かれた大きな垂れ幕が登場。 「オラたちがトコブシーズだ!」
――なんと観客に扮していたトコブシーズのメンバーが、観客席から立ち上がりステージへダッシュ。
この刺激的なサプライズ演出に観客の興奮は頂点に達した。
「反省」の詰まったバスケット
コンサート1曲目の「騙してごめん」を熱唱し終えた小島助六が、座席の下を見てご覧と伝えると、観客は号泣。
なんと「反省」の焼印が押された手作りのお饅頭と、お茶、おしぼり、虫歯予防のキシリトールガムまで入ったバスケットが仕込まれていました。
2曲目の「オラは和菓子屋3代目」はお饅頭を食べながら聴いた。 トコブシーズのコンサートを観に来た観客全員が、熱狂的なファンになった瞬間でした。
採算度外視の「おもてなし」
皮肉なことに「おもてなし」はトコブシーズの利点でもあり欠点でもある。
ライブで食事を提供したり、手ぶらで帰らせるわけにはいかないと全員分の手土産を用意したり、記念ライブに至ってはライブチケット代を超えるキャッシュバックを行ったりと、採算度外視ぶりは凄まじい。
また、コンサート前後には来場者全員の肩や足裏マッサージを行ったり、悩み相談会や縁結びまで行うのだ。
トコブシーズの逸話
中古ストーブ トコブシーズはライブ後に必ずファンをお見送りするのだが、寒さで小刻みに身体を震わせていたファンを案じた小島助六が、そのファンの自宅に中古のストーブを届けた。
小島助六は新品のストーブを贈りたかったのだが、日頃の過剰なおもてなしにより常に金欠状態だったトコブシーズにとって、これ以上できることがない程の極限のおもてなしが中古ストーブだった。
四つ葉のクローバー探し 新曲「おいらの心は四つ葉のクローバー」を熱唱した小島助六の歌声に感動したファンが、ライブ後のお見送り握手会の時に「私この後四つ葉のクローバーを探しに行きます!」と伝えると、メンバー全員で四つ葉のクローバー探しを手伝った。
しかし、3日間探しても見つからなかったので、手先が器用な達磨氏がこっそりトイレに行くふりをしてクローバーを改造し、四つ葉のクローバーを作って手渡した。達磨氏は背徳感に苛まれ、6時間泣き続けました。
その後1週間かけてメンバーだけで四つ葉のクローバー探しをしたところ、三木が発見。次のライブの時、そのファンが会場に改造四つ葉のクローバーを持ってきた際、達磨氏がハグをする隙に本物の四つ葉のクローバーと入れ替えました。
家庭訪問 トコブシーズほどファンのプライベートに介入するバンドは存在しない。コンサートが終わり、興奮が冷めきる頃に突然メンバー全員が家庭訪問に来る。
ファンはこのサプライズ訪問に目一杯のおもてなしを提供するが、そのお返しと言わんばかりにトコブシーズのメンバーは訪問先宅のトイレや風呂、エアコンの清掃、故障した家電の修理、庭の草むしり等を行うのだ。
結び
おもてなしという言葉は、もてなす側ともてなされる側が存在することを前提にする。 しかしトコブシーズのコンサートが終わる頃には、どちらがどちらかわからなくなっている。
一度、行ってみてほしい。 最後の合唱が終わったとき、あなたはきっと、帰りたくなくなる。

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