握力の化け物が農場で生まれた話——マグナス・サミュエルソンから学ぶ筋トレの秘訣

世界に、握力の化け物と呼ばれた男がいた。スウェーデン人のマグナス・サミュエルソン。1998年ワールズ・ストロンゲスト・マン(世界最強の男)チャンピオン。13年間のキャリアで18のワールドレコードを樹立し、「世界最強の腕と手を持つ男」と称された。

この男の握力がどれほどかという話になると、数字が少しややこしい。日本のテレビ番組が「ギネス記録192kg」として紹介したことがあり、Wikipediaにもその数字が登場する。ただ、IronMind社の関係者がサミュエルソン本人に確認したところ、「グリップマシンで測定した記憶はない。いつもグリッパーを使っていただけだ」と答えたという。

公式に確認されているのはこちらだ。IronMind社製「キャプテンズ・オブ・クラッシュ No.4グリッパー」——閉じるのに165.5kg(365ポンド)の力を要する史上最難関の握力器具を、史上初めて2回連続で閉じた。世界でこれを達成した人間は現在も6人しかいない。192か165.5か。どちらにせよ、常人の握力が50kg前後であることを考えれば、どちらの数字も同じくらい非現実的だ。

ジムではなく、農場で鍛えられた

この男の最も興味深い点は、記録の数字ではなくその「出所」だ。サミュエルソンはスウェーデンの牧場で育った。幼いころから干し草の運搬、牛の餌やり、畑の石拾い、森での薪割りといった農作業が日課だった。これが圧倒的な身体能力の土台になった。

ジムのマシンでも、プロテインシェイカーでもなく、毎日の農作業が彼を作った。母親がスウェーデンのアームレスリング元チャンピオンという環境で育ち、農場での肉体労働とアームレスリングの練習が組み合わさって、ヨーロッパトップクラスの選手へと成長した。強さはプログラムより先に、生き方の中にあった。

トレーニングと食事

トレーニングはスクワット・デッドリフト・ベンチプレスといった基本動作を軸にしながら、アトラス・ストーンやログプレスなどストロングマン特有の種目を組み合わせる。グリップ強化のためのハンドグリッパートレーニングも欠かさない。

食事はタンパク質と良質な脂質を重視し、炭水化物を抑えたアプローチ。水分補給も徹底している。競技体重は身長201cm、体重147kg。しかし「パワーベリーを持つ怪物」ではなく、引き締まった北欧の巨人という体型だと評される。

薬物なし、という哲学

サミュエルソンは自身の公式サイトで「自分の目標は、どこまで強くなれるかを見極めることだった。そして完全にクリーン(薬物なし)でそれを達成した。これは薬物なしでも成功できることの証明だ」と明言している。ストロングマン競技にドーピング疑惑がつきまとう中、この発言は長年ファンからの信頼の源になっている。

グラディエーターを断った男

サミュエルソンは映画「グラディエーター」への出演オファーを断った。エージェントから「剣で戦う役」と聞かされ、共演者の名前も知らなかったため、B級映画だと思ったからだという。その映画は後にアカデミー賞作品賞を受賞した。判断を間違えることは、世界最強の男にもある。

引退後の生き方

現役引退後はスウェーデンに戻り、兄のトルビョルンとともに農場を営む専業農家として生活している。妻クリスティンはスウェーデン最強の女性に2度輝いた元チャンピオン。

引退後はダンシング・ウィズ・ザ・スターズのスウェーデン版で優勝し、犯罪スリラードラマ「アーネ・ダール」で刑事役、BBCの「ラスト・キングダム」にバイキング戦士役で出演した。農場、ダンス、刑事ドラマ、バイキング。この男、つかみどころがない。

この男から学べること

農場での肉体労働が土台。基本動作の徹底。薬物なしへの信念。引退後も農業と家族を中心に生きる一貫性。マグナス・サミュエルソンが教えてくれるのは、「強さは特別なプログラムより、日常の積み重ねから生まれる」ということかもしれない。

165.5kgのグリッパーを閉じた手の出発点が、農場の石拾いだったように。

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この記事を書いた人

tokaijiruのアバター tokaijiru 都会汁代表

都会汁。私は、どこにでもいて、どこにもいない。長い年月を経て、ようやく見えてきた世界の裏側と新しい日常。ここは、私が拾い集めた断片を静かに吐き出す場所。通りすがりのあなたに、何が伝わるかはわからない。

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