昌治という少年
昌治は17歳で、自分がゲームの天才だと信じていた。根拠はあった。学校のクラスではスマブラ無敗、Apexのランクはダイヤ、マインクラフトでは6万人フォロワーのYouTubeチャンネルを持ち、プレステとSwitchと高性能ゲーミングPCが机の上に並んでいた。
「ゲームなら俺に勝てる奴はいない」——これが昌治の口癖だった。
父の転勤
春、父親が言った。「カザフスタンに転勤になった」 「カザ……どこ?」 「中央アジア。ロシアと中国の間あたり」
昌治は地図を見た。広大な草原の国が画面に広がった。Wi-Fiの速度を検索したら悪くない数字が出てきたので、とりあえず了承した。どこにいてもゲームはできる。
最初の敗北——アシック
アスタナ郊外の村に着いた最初の週末、近所の子供たちが昌治を外に呼び出した。言葉は通じなかったが、身振りで「一緒に遊ぼう」と言っているのはわかった。
地面に小さな骨が並べられた。羊の膝の骨だった。子供たちは色を塗った骨を並べ、別の骨を投げてそれを弾き飛ばす。弾いた骨は自分のものになる仕組みだ。「なんだこれ。原始的すぎる」と昌治は鼻で笑った。指の精度には自信があった。毎日コントローラーを握っているのだ。
しかし3投して、3回とも外した。隣の8歳の少女、アイグルは1投目で昌治の骨を3つ弾き飛ばした。にこりともしない真剣な顔で。「は?」——2時間後、昌治の骨は全部なくなっていた。アイグルの手元には山ができていた。
第二の敗北——ベシュ・タシュ
翌日、別の少女たちが昌治を呼んだ。五つの小石を使う遊びで、一つを投げ上げている間に地面の石をつかみ取る。投げた石が落ちる前に間に合わせなければならない。
「これも指の問題だ。俺の反射神経を見ろ」 昌治の指は石を二つつかむ前にぽろぽろとこぼれた。9歳のセリナは全部の石を一瞬でつかんだ。しかも笑いながら、友達と話しながら。昌治は5回挑戦して、1回も成功しなかった。
第三の敗北——トギズクマラック
3日目、村の集会所に連れていかれた。木の板に穴が掘られ、石が置かれたボードゲームだった。マンカラの一種で、戦略的に石を動かして相手より多くを集めるゲームだ。
「ボードゲームか。これなら頭脳戦だ。俺は戦略ゲームも得意だ」 対戦相手は12歳のアブドルという少年だった。30分後、昌治の石は全部アブドルの手元にあった。
「もう一回」 また30分後、同じ結果だった。「もう一回」と食い下がるが、アブドルは3回目の勝利の後、昌治の肩をぽんと叩いて何かカザフ語で言った。通訳してくれた父親によると、「また来年ね」という意味だった。
最終的な敗北——アイ・ケレック
週末の夜、月が出ていた。村中の子供が草原に集まってきた。二手に分かれて向かい合い、一人が走って相手チームの壁を体ごと突き破る遊びだった。
昌治は体格だけは自信があった。運動は苦手でも、体は大きい。全力で走って突撃したが、壁は崩れなかった。子供たちの連携が固くて、昌治は弾き飛ばされた。
草の上に大の字に転がった昌治の上に、カザフの夜空が広がっていた。星が恐ろしいほど多かった。アイグルが覗き込んできた。骨のゲームで昌治を完膚なきまでに叩きのめした8歳だ。何か言って、笑った。たぶん「大丈夫?」と聞いていたと思う。

帰国
3ヶ月後、昌治は日本に帰った。部屋のゲーミングPCを起動し、Apexを立ち上げたが、なぜか気が乗らなかった。
しばらくぼんやりして、昌治は考えた。アシックもベシュ・タシュもトギズクマラックも、あの子たちは毎日遊んでいた。何年も。道具は骨と石だけで。それで昌治に勝った。「ゲームなら俺に勝てる奴はいない」という言葉を思い出し、あの言葉は何だったのだろう、と思った。
翌日、昌治は進路指導の先生のところへ行った。「公務員になりたいんですけど」と。
先生は目を丸くした。つい先週まで「ゲーム実況で食っていく」と言い張っていた生徒だったからだ。「何があったんだ」と問われ、昌治はしばらく考えてから答えた。
「カザフスタンで8歳の女の子に骨投げで負けました」 先生はしばらく沈黙した後、「まあ、座れ」と言った。

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