バカップルと無謀パルクール——パルクール シリーズ2

武昭は22歳で、自分のことをわりとアスリートだと思っていた。根拠は特になかった。高校のとき体育の成績が良かったのと、最近TikTokでパルクールを見すぎているという二点だけだ。

雅代という変数

交際7ヶ月の雅代は、武昭より若干ノリが良すぎた。武昭が「あの壁登れそう」と言うと「え、やってよ絶対映えるじゃん」と即答した。武昭が「職も練習してないし」と言うと「えー、ビビってるの?」と笑った。雅代の語彙には「危ないからやめよう」という選択肢が存在していなかった。

日曜日の午後

廃工場の近くに二人でいた。高さ4メートルほどのコンクリートの壁があった。武昭はこれと似た壁をTikTokで何百回も見ていた。「走って蹴って上端つかむだけ」に見えていた。

「あれ行けるじゃん」と武昭が言った。「行ってよ、撮るから」と雅代がスマホを横向きに構えた。武昭は助走をつけた。壁を蹴り上げた。右手が上端に触れた。指が滑った。

落ちた。

右腕を伸ばして着いた。そのまま肩から地面に転がった。「え、大丈夫?」と雅代が言いながらもスマホを下ろしていなかった。

結果

右腕の骨が2本折れた。肩の靭帯も傷めた。パルクール関連の救急搬送データによると、負傷の過半数が四肢への衝突や着地の失敗によるもので、骨折を伴うケースも多く記録されている。

武昭はその統計の一員になった。救急車の中で武昭は天井を見ながら「なんで俺、練習一回もしてないのに本番やったんだろう」と思った。答えはスマホを構えた雅代の顔がちらついた。まあそれを許した自分の問題でもある。

損害賠償という追加イベント

廃工場には「立入禁止」の看板があった。治療費に加えて、不法侵入と施設への損害を問われるリスクが発生した。弁護士に相談したら「管理者から請求が来る可能性がある」と言われた。骨折してリハビリ中の22歳には重すぎる展開だった。

LINEの一通

骨折から3日後、雅代からLINEが来た。「なんかごめんね、他に好きな人ができたから別れよ?」

武昭はギプスをはめた右腕でスマホをじっと見た。返信しようとしたが利き腕が使えず、左手でフリック入力している間に既読のままブロックされていた。雅代の高速ブロックには定評がある。

その後

リハビリは3ヶ月かかった。右腕はほぼ日常生活に戻れるくらいには回復した。完全ではないが、まあ生活できる。施設との交渉は半年続いた。貯金は大きく削れた。

武昭は今もTikTokを見ている。パルクールの動画も見る。ただ以前と違うのは、「俺にもできそう」と思ったとき、ちゃんと一回止まるようになった。雅代は3週間後に別の男のインスタに登場していた。アウトドアアクティビティを楽しんでいる写真だった。元気そうだった。

まとめると

パルクールの経験者が口を揃えるのは「動画でうまそうに見える人は何百時間も練習している」という一点だ。スマホの画面には訓練の積み重ねが映らない。

絶対に無謀なパルクールに挑むべきではない。骨と彼女を失ってから後悔しても遅すぎるのです。

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この記事を書いた人

tokaijiruのアバター tokaijiru 都会汁代表

都会汁。私は、どこにでもいて、どこにもいない。長い年月を経て、ようやく見えてきた世界の裏側と新しい日常。ここは、私が拾い集めた断片を静かに吐き出す場所。通りすがりのあなたに、何が伝わるかはわからない。

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