スペインの不思議なクリスマス習慣「ティオ・デ・ナダル」とは?丸太からプレゼントが出る深い意味

繁明には、クリスマスの黒歴史がある。

第一の失恋——中華料理事件(25歳) 「クリスマスにどこか行きたい」と彼女が言った。繁明は一週間前から予約を入れていた。努力した。しかし予約した店は駅前の中華料理店だった。「なんで中華なの」「餃子好きって言ってたじゃん」「クリスマスに餃子の話をしてない」 二人でシュウマイを食べた。1月に別れた。

第二の失恋——バーゲン品事件(27歳) 財布をプレゼントした。渡した瞬間、値札が落ちた。バーゲン品のシールがついていた。定価の40%オフだった。「……ありがとう」 繁明は「いい買い物したでしょ」と言った。2月に別れた。

第三の失恋——サプライズ事件(29歳) 今度こそと思い、ホテルのレストランを予約して、バラを買って、出口で待った。彼女は別の出口で1時間待っていた。スマホの電池が切れていた。ようやく合流したとき、バラはしなびていた。 「繁明くんって、なんか惜しいよね」 3月に別れた。


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31歳の冬と「ティオ・デ・ナダル」

そして31歳の冬、付き合って3ヶ月の葵と、今年のクリスマスを迎えようとしていた。 繁明は珍しく早めに動いた。イタリアン、コース料理、個室、2ヶ月前に予約。プレゼントはアクセサリー、定価、バーゲンシールなし。あとは話題だ、と繁明は考えた。仕事の調べ物をしているうちにたまたまカタルーニャのクリスマス習慣を読んだ。これしかない、と思った。

ティオ・デ・ナダル カタルーニャ地方——スペインのバルセロナを含む地域——には、「ティオ・デ・ナダル」という存在がいる。直訳すると「クリスマスの丸太おじさん」だ。顔と足と赤い帽子がついた中空の丸太で、12月8日から毎晩家族が餌を与えて育てる。 そしてクリスマスイブ、家族全員が棒でこの丸太を叩きながら「うんちをしろ」と命じる歌を歌い、叩かれた丸太の下からプレゼントとお菓子が出てくる。

笑える話に見えるが、繁明にはそれ以上のものが見えた。3週間かけて家族みんなで丸太に餌をやって、毛布をかけてやって、クリスマスまで一緒に育てていく。その時間の積み重ねが、この習慣の本質なのだと思った。サンタクロースでも天使でもなく、棒で叩かれた丸太がプレゼントを出す。ファンタジーより少しだけ人間くさい。繁明はそこが好きだった。


クリスマスイブの夜

個室のイタリアンで、食後のコーヒーが来たとき、繁明はそれを話した。棒で叩いて、うんちをしろと歌って、丸太からプレゼントが出ること。でも本当はそれよりも、3週間かけて家族で一緒に育てていく時間の方が大事なんじゃないかと思う、という話をした。

葵は途中から笑いながら聞いていた。 「うんちをしろって歌うの?」 「歌うらしい」 「家族全員で?」 「家族全員で」 葵はしばらく笑った後、繁明の腕にぎゅっと抱きついてきた。 「繁明くんって、変なこと詳しいね」 「褒めてる?」 「褒めてるに決まってるよ!」


幸せの形

いい娘だ、繁明。大切にしろよ。 同じものを見て笑える人間と出会うのは、思った以上に難しい。カタルーニャの棒で叩かれる丸太おじさんを聞いて、笑いながらも「それって素敵だね」と言える人間がどれだけいるか。価値観が完全に一致する必要はない。でも、相手の「面白い」に「それ面白いね」と返せる関係は、それだけで十分すぎるほどの財産だ。

葵は繁明の話を最後まで聞いて、腕に抱きついてきた。それだけのことが、どれだけ得難いか。幸せになれよ、繁明&葵。

次回・ホワイトデーに手作りおはぎを作って繁明フラれる。

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この記事を書いた人

tokaijiruのアバター tokaijiru 都会汁代表

都会汁。私は、どこにでもいて、どこにもいない。長い年月を経て、ようやく見えてきた世界の裏側と新しい日常。ここは、私が拾い集めた断片を静かに吐き出す場所。通りすがりのあなたに、何が伝わるかはわからない。

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