南太平洋に浮かぶ島国ツバル。総面積はわずか26平方キロメートル、人口は約1万1千人、国土の最高地点はたった4.6メートルしかない。この小さな国が今、前例のない選択をしようとしている。
気候変動による海面上昇で国土の多くが水没の危機にさらされており、満潮時には住宅地の浸水が頻発している。そこでツバル政府が打ち出したのが「デジタル・ツバル」構想だ。物理的な国土が失われても、国家としての存在を保つために、国のアイデンティティ・文化・行政機能を仮想空間に移行しようというものだ。
3Dスキャンによる島のデジタルツインをメタバース上に構築し、伝統的な知識、写真、歌まで全てをデジタル台帳に保存する。国民が世界中に離散して生活を続けていく場合でも、デジタル政府として国民へのサービスを行い、国民はどこにいてもデジタル化されたアイデンティティにアクセスできる。
土地のない国家。前代未聞だが、笑えない。
一方、日本では逆のベクトルが動いている。
石川県加賀市は日本初のe-Residency(電子市民)プログラム「e-加賀市民制度」を発表した。実際に居住していなくても「e-加賀市民」という電子上の市民になれる制度で、市民に準じた行政サービスや移住支援を受けられる。
滞在日数に応じた宿泊費の支援、コワーキングスペースの無償利用、移住時の手続きワンストップ支援など、関係人口を増やすことで人口減少に対応する狙いだ。
こうした動きは世界中で起きている。エストニアは2014年からe-Residencyを開始し、8万人を超える電子市民がエストニアで会社設立や銀行口座開設ができる。ポルトガルのマデイラ島、ドバイ、バルバドス、マレーシアなど40カ国以上がデジタルノマドビザや電子市民制度を導入している。
ツバルは国ごとデジタルに移行しようとしている。加賀市はデジタルで人を呼び込もうとしている。方向は逆だが、どちらも「場所と人の結びつき」が変わりつつある時代への応答だ。
故郷は生まれた場所だけではない。選ぶ時代が来た。

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