エントロピーという言葉がある。物理学の用語で、乱雑さの度合いを示す概念だ。宇宙はその創成以来、一貫してエントロピーを増大させる方向に向かっている。散らかる。混ざる。拡散する。これが宇宙の基本方針であり、熱力学第二法則として厳然と記述されている。
では、ハゲはどうか。毛髪は収束し、頭部の表面は整然たる一枚岩へと向かっていく。個々の毛が乱立していた状態から、なめらかで均質な秩序へ。これは明らかにエントロピーの減少である。宇宙の基本方針に真っ向から逆らう、孤高の現象だ。
そしてここに、西洋の審美眼が重なる。ジェイソン・ステイサムを見よ。ブルース・ウィリスを見よ。ヨーロッパやハリウッドでは、ハゲはずっとダンディの記号だった。隠すものではなく、まとうものとして扱われてきた。なぜ彼らはそれを知っていたのか。おそらく直感的に気づいていたのだ。ハゲとは、宇宙の流れに抗う、稀有な秩序の体現である、と。乱雑さに向かう宇宙の中で、頭頂だけが逆行する。それは反骨であり、意志であり、ある種の気高さだ。
一方、「散らかす」はどうか。こちらは説明の必要もない。整頓された本棚は崩れ、畳まれた服は広がり、集められた書類は飛散する。無秩序の拡大。エントロピーの増大。宇宙の意思に忠実な、模範的な行為である。
さて、ここで問題が生じる。「ハゲ散らかす」という言葉が存在する。これは複合語である。ハゲとは、エントロピー減少の象徴だ。散らかすとは、エントロピー増大の典型だ。この二つが合体したとき、物理的にいったい何が起きているのか。
答えは、抜けた毛にある。頭部という局所では毛髪が失われ、秩序が生まれる。しかしその毛はどこへ行くのか。枕に落ち、排水口に漂い、見知らぬ他人のセーターに付着し、最終的には宇宙 of の果てへと拡散していく。頭という系のエントロピーは下がるが、頭の外の世界のエントロピーは増大する。熱力学第二法則は、完全に保存されている。
つまりハゲ散らかすとは、自らの頭部を秩序の祭壇として捧げながら、同時に宇宙全体のエントロピー増大に貢献するという、二重の使命を帯びた行為である。局所に秩序をつくり、全体の無秩序を加速させる。相反する二つの力を、一つの頭頂で同時に体現している。これは矛盾ではない。これは統合だ。ハゲ散らかしている人は、秩序と混沌を同時に生きる、宇宙で最も複雑な存在である。
あなたの会社に一人はいるはずだ。会議室に入るたびになぜか場が乱れ、資料が行方不明になり、コーヒーがこぼれる。それでいてどこか、奇妙な存在感を放っている人。その人の頭頂部をそっと見てほしい。そこに、宇宙の矛盾を引き受けた者の、静かな輝きを見るだろう。

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