エベレストを目指すなら、まずは小牧山から始めたほうがいい

「いつかエベレストへ行きたい」 男は時々、突然そう言い出す。YouTubeで登山動画を見たあと。ドキュメンタリーを見たあと。あるいは仕事で疲れた夜。 標高8848メートル。世界最高峰。人類のロマン。確かに響きはいい。 だが、その直後に登山用品店で七万円のジャケットを見始めるのは、少し待ったほうがいいと思う。

なぜなら、エベレストは普通に死ぬからである。 寒いとか、キツいとかではない。酸素が薄く、天候が変わり、人間が生存できる限界へ近づいていく世界だ。「人生を変えたい」くらいのテンションで突撃していい場所ではない。

なので、まずは小牧山へ行ったほうがいい。

小牧山。 愛知県にある山で、標高はそこまで高くない。というか、かなり登りやすい。だが、これが重要なのだ。 世の中には、「いきなり高難易度へ飛ぶことで、自分の覚悟を証明したくなる瞬間」がある。しかし大抵の場合、人間に必要なのは覚悟より“継続可能性”である。

まず近場へ行く。歩く。息が切れる。思ったより脚が疲れる。この「現実との接触」が重要だ。 特に登山は、ネットの映像と身体感覚がズレやすい。動画だと爽やかに見える。だが実際は、「坂、長くない?」「太もも、終わりでは?」「あと何分?」みたいな時間が普通にある。 そして小牧山くらいだと、その“登る”という行為を安全に体験できる。

しかも、意外と楽しい。 木がある。風がある。上まで行くと少し景色が変わる。人類って、標高が数十メートル変わるだけで妙に満足する生き物なのだ。

さらに小牧山は、織田信長ゆかりの山城としても知られている。つまり、ただ歩くだけではない。「信長もここ見てたのか」みたいな歴史補正が入る。これはかなり強い。

エベレストにはエベレストの凄さがある。だが、小さい山には“小さい山の良さ”がちゃんとある。 近い。危険が少ない。思い立った日に行ける。この「生活圏に山がある感覚」、実はかなり豊かだと思う。

あと、登山って本来、いきなり極限へ挑む趣味ではない。少し歩く。また行く。次はもう少し遠くへ行く。そうやって身体を慣らしていく文化だ。

なので、もし「いつかエベレストへ」と思ったなら、まずは小牧山くらいから始めるのはかなり正しい。 世界最高峰への道は、案外、愛知県のゆるやかな坂から始まるのかもしれない。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

tokaijiruのアバター tokaijiru 都会汁代表

都会汁。私は、どこにでもいて、どこにもいない。長い年月を経て、ようやく見えてきた世界の裏側と新しい日常。ここは、私が拾い集めた断片を静かに吐き出す場所。通りすがりのあなたに、何が伝わるかはわからない。

コメント

コメントする

目次