ウン・ポコ・ローコをご存じだろうか
「きゃあ! 汚い! あたい下ネタきらい!」 「お下品ざます! 聞いた瞬間に鳥肌が立ってよ!」 「おいどんも聞いた瞬間に吐き気がしたとです! こげな言葉を口にするとは何事か!」
待ってほしい。 「ウン・ポコ・ローコ」は下ネタではない。
バド・パウエルによって作曲されたジャズの名曲で、1951年に録音されたスタンダード曲だ。タイトルはスペイン語で「少し狂っている」という意味を持つ。  Un Poco Loco。スペイン語で「ちょっとイカれてる」。 そういう曲だ。

バド・パウエルとは何者か。
ハーレム生まれのジャズ・ピアニスト。チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーと活動を共にし、ピアノを「ホーンの延長」として扱う演奏スタイルを確立した、現代ジャズ・ピアノの基礎を築いた人物だ。  ジャズピアノの歴史は、バド・パウエルの前と後で変わった。それくらいの人間だ。
その男が1951年に放り込んだのが、この曲だ。
ジャズ史上でも悪魔的な怪曲・怪演として名高い。欧米諸国では変態的難曲として特に有名になり、多数のピアニストのチャレンジ曲となった。初録音から70年経っても相変わらずとんでもない異様な曲だ。  「少し狂っている」と名付けておいて、実際はかなり狂っている。タイトルが控えめすぎる。
このアルバムには3つのテイクが収録されており、鬼気迫る演奏で作品を進化させていった様子が記録されている。  同じ曲を3回録った。3回とも違う。それがバド・パウエルだ。
さて、冒頭の三人に戻ろう。
「きゃあ」と叫んだあたい。「ざます」と顔をしかめたお嬢様。吐き気を訴えた「おいどん」。 この三人は何をしたか。
「ウン・ポコ・ローコ」という音の連なりを耳にした瞬間、自分の内側にある下品回路と勝手に接続して、お下品な言葉と決めつけて騒ぎ立てた愚かな烏合の衆たちだ。
バド・パウエルは1966年に42歳で亡くなった。 彼が残した「少し狂った」曲は、今日も世界のどこかで演奏されている。
ちょっと変わったタイトルだが、聴けばその素晴らしさがわかるはずだ。

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