ハンバーガーにケチャップをかける。フライドポテトにつける。オムライスに絵を描く。どこからどう見ても、アメリカの食べ物だ。ただし、それは全部間違いだ。
ケチャップのルーツは中国にあった「魚醤」だ。魚を発酵させた調味料で、かつて中国の南部では「ケ・ツィアプ」と呼ばれていた。それが語源だ。 
魚醤といえばナンプラーだ。タイ料理に使う、あの独特の香りがするやつだ。つまりケチャップの先祖は、ナンプラーである。オムライスにナンプラーをかけていると思うと、少し気持ちが変わる。
17世紀、東西貿易が盛んになる中でアジアからヨーロッパにケチャップが伝わった。ところがヨーロッパでは大きく姿を変えた。かきやロブスターなどの魚介類のほか、きのこやクルミ、フルーツなど様々な材料で作ったケチャップが登場したのだ。 魚の発酵液が、マッシュルームのソースになった。ブルーベリーのケチャップも作られた。クルミのケチャップもあった。ヨーロッパ人は「ケチャップ」という名前だけを受け取り、中身を全部入れ替えた。
そしてアメリカに渡る。
当時のトマトは酸味が強すぎるなど品質が優れず評判が悪かった。そこで、この売れ残ったトマトを使ったケチャップが考案された。 売れ残りのトマトの処理に困って、ケチャップにした。世界中で愛される調味料の誕生が、そういう事情だったとは。
1876年、世界初のトマトケチャップがハインツ社より販売された。 そこから一気に広まった。
日本に来てからも、ひと仕事する。
明治時代にアメリカから日本に渡ったケチャップに目をつけた蟹江一太郎という人物がいた。愛知県の農家出身で、軍の上官から「西洋野菜を育てろ」と助言された人物だ。 当時「赤茄子」と呼ばれていたトマトを育て始めたが、まったく売れなかった。そこで加工して調味料にする道を選んだ。色がくすんでしまう問題には、熱いまま瓶に詰めて密閉するという方法で解決した。 売れ残りのトマトが出発点だったのは、アメリカと同じだ。
1966年、日本は世界初のチューブ入りトマトケチャップを生み出した。片手で開けられ、逆さに立てて保存できる。この形式は世界に広まった。 あのチューブ、日本発祥だったのだ。
ケチャップは西洋の象徴ではない。アジアで生まれ、ヨーロッパで姿を変え、アメリカで商業化され、再びアジアに戻ってきた旅人なのだ。 ケチャップ発祥の中国でも、今やトマトケチャップが酢豚に使われている。 
魚の内臓から始まった旅が、酢豚に着地した。今度オムライスを食べるとき、ほんの一瞬だけ思い出してほしい。その赤いソースの祖先は、魚だった。

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