毎年、夏になると人々は騒ぐ。「焼けたくない」「シミが怖い」「紫外線対策しなきゃ」。しかし、その対策はどこか甘い。日傘。帽子。SPF50。冷感ミスト。全部、“まだ太陽を信じている人間”の発想だ。
太陽は甘くない。数億年燃えている。地表へ容赦なく光を叩きつけ、生物を焼き、乾かし、進化させてきた巨大核融合装置である。その相手に、「美容液成分入り」で勝てると思うほうがおかしい。
そこで私は提案したい。セメントである。
セメントを皮膚へ塗布し、硬化。完全遮光。紫外線透過率、ほぼゼロ。SPFという概念そのものを破壊する圧倒的防御。人類はなぜここへ辿り着かなかったのか。
考えてみてほしい。トンネル工事の作業員が真夏にこんがり狐色になっているイメージはあるだろうか。ない。
セメントは文明を守ってきた。ダム。防波堤。高層ビル。そして次は、人間の肌だ。
最近の若者は「抜け感」を重視するらしい。違う。必要なのは“密閉感”である。
朝、鏡の前に立つ。左官コテを持つ。頬へ塗る。額を均す。最後に「今日は真夏日なので二度打ちです」と仕上げる。完璧だ。
多少、笑顔にヒビが入ることはある。だが、美とは本来そういうものだ。
しかもセメントには安心感がある。日差しが強いほど、人は不安になる。だがセメントを塗った瞬間、不思議と精神が落ち着く。「ああ、自分はもう建造物側なんだ」という静かな確信が芽生える。人間をやめ、構造物へ近づく。それこそ究極のUV対策思想である。
もちろん課題もある。雨の日に重量が増す。鳥が肩へ止まる。街路樹と同じ扱いを受ける。夏の終わりに撤去工事が必要。
だが、それでも私は思う。人類は長いあいだ、“焼かれる側”だった。しかしセメントをまとった瞬間、人は変わる。
もう太陽に怯えない。照り返しすら受け止める。アスファルトと対等な存在になる。そのとき初めて、人間は“日陰”そのものになれるのだ。

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