VR堆肥

今やVRは大人気のコンテンツとなった。バーチャルリアリティーによるスカイダイビング体験や、ジェットコースター。お化け屋敷なども楽しい。家を買いたい時はVRで家を見て回れるし、世界遺産を見ることもできる。好きなアイドルとデートなんてことも可能だ。VRは夢を叶える最高の技術といえよう。

VRに目をつけた天才プログラミング集団「お芋」は大手制作会社からの下請けで言われた通りのプログラムを組むだけのブラック企業。休日もなく、朝から晩までパソコンに向かい続けて残業代はゼロ。時給780円なので丸一日働いても日当はしょぼい。家賃を払うだけで赤字なので会社に住み込む社員も多いお芋。

しかし、お芋には夢があった。全員で協力して金を貯めて、自分たちオリジナルのVR動画を発表して大儲けしようという、わかりやすい夢だ!必死の頑張りにより、いよいよプロジェクトがスタート。

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ところが、撮影班の武晴はギャンブル大好きなろくでなし。撮影代を「増やしてから撮影に行けば無料でいける!」と一ヶ月パチンコに通い続けて破産。半年前に農業体験で撮影した動画を会社に送付して「お遍路にいく」と書き置きを残し失踪。しかしお芋のメンバーは人を疑うことを知らないウブ。さあこれからは頑張るだけだと円陣を組んだ。

届いた動画を見事なプログラミング技術によってVR化していくお芋のメンバー。若田重松さんの目線から見た堆肥の切り返し動画はあっという間に見事なVR堆肥切り返し体験動画として完成した。VR化する技術はまさに最高峰でその迫力たるや思わず叫んでしまうほど。

乱れ飛ぶオガクズ。窒素源の鶏糞の匂いまで漂ってくるようだ。リン資材は高価なコウモリの糞、バットグアノを投入。これ以上の材料はなかなか存在しないであろう。大量の虫が飛び交うのもバッチリ投影され、オガクズからカブトムシの幼虫がゴロゴロ出て思わず笑い声ももれる。

これを重松さん親子は見事な名人芸で切り返す。普通二トンもの堆肥切り返しはユンボなど重機が欲しいところだが、角スコ一本で切り返す様はまさに修羅が乗り移ったかのよう。気迫が渦となり、それもまた映像に凄みを加える。そーれ!そーれ!と掛け声を掛け合いながらものすごい水蒸気の中手際良くかき混ぜていく。ここで大切なのが水分比率。これを疎かにするなど愚の骨頂。重松さんの奥さん佳子さんが微妙な水分の加減を手で確かめながら水をかける。

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およそ60分ほどで作業は終了。動画はここまでである。あとは二週間寝かし、温度が上がってくれば再び切り返す。これを繰り返せば最上の堆肥の完成だ。

動画の仕上がりも最高。おそらく歴史上でこれより堆肥の切り返しの迫力を伝えることは不可能であろう。お芋の人々もガッツポーズを掲げた。

結果としてお芋は借金にまみれてメンバー一斉夜逃げをかまして有名になった。堆肥の切り返し動画は60本しか売れなかったのである。まともに見れば見た人全てを虜にする衝撃VRだが、テーマがまずすぎた。若者はインスタ映えしない堆肥に興味はなかったのだ。

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