スーパーの香辛料コーナーに、地味な乾燥葉が売っている。ローリエ、またはローレル、またはベイリーフ。日本語では月桂樹の葉。シチューやカレーに一枚入れて、食べる前に取り出すだけの、それほど目立たないハーブだ。しかしこの葉には、神話から石鹸まで、数千年分の物語が詰まっている。
神が女に振られた話
ギリシャ神話の光明神アポロンは、愛の神エロスの弓を馬鹿にしたことへの仕返しに、金の矢(恋する矢)を射込まれた。同時にエロスは近くにいたニンフのダフネに鉛の矢(拒む矢)を放った。アポロンはダフネに恋し、ダフネはアポロンを拒絶して逃げ回った。
追い詰められたダフネは父である河神に助けを求め、自らの姿を月桂樹へと変えた。失意のアポロンは「せめて私の聖樹になっておくれ」と頼み、ダフネは枝を揺らして葉をアポロンの頭に落とした。アポロンは永遠の愛の証として月桂樹の葉から作った月桂冠を死ぬまで身につけたという。これが月桂冠の起源だ。神が女に振られた結果、月桂樹が神聖な木になった。
以来、月桂冠はアポロンの霊木として崇められ、デルポイで行われたピュティア競技祭など特定の競技会で優勝者に与えられた。なおよく誤解されるが、古代オリンピックの勝者に贈られたのはオリーブの葉冠で、月桂冠ではない。ちなみにノーベル賞受賞者を英語でNobel laureatesという。laureatesは「月桂冠をいただいた者」という意味だ。アポロンに振られたダフネの名前は今も、世界最高の学術的栄誉の呼び名の中に生きている。

ローリエとローレル、同じものの話
ローリエはフランス語、ローレルは英語またはスペイン語表記で、どちらも同じ植物を指す。名の由来はラテン語の「laudare(誉める)」だとされる。誉める、という語源は月桂冠から来ている。勝者の頭に乗せて称えた植物だから、その名前自体が「賞賛」を意味するようになった。
学名はLaurus nobilis。種小名のnobilisは「高貴な」「気品ある」を意味する。地味な香辛料が、名前だけは異様に気高い。
シリアの石鹸、1000年の歴史
月桂樹の話はギリシャで終わらない。中東に飛ぶ。アレッポの石鹸は、シリア第二の都市アレッポで1000年以上前から作られてきた。材料はオリーブオイルとローレルオイルのみ。2024年12月にユネスコ世界無形文化遺産に認定された。

ローレルオイルは月桂樹の葉からではない。熟した実を24時間以上煮続け、浮き上がってくる油をすくい取る方法で作られる。実に含まれるオイルは重量のわずか10%で、世界的にも希少で高価だ。アレッポの石鹸作りの方法はヨーロッパに伝わり、フランスのマルセイユへ、そこから世界へと広がった。固形石鹸の発祥地はシリアだとされている。
ギリシャ神話の時代から神の頭を飾っていた月桂樹が、中東で石鹸になり、十字軍の時代にヨーロッパに伝わり、マルセイユ石鹸という形で現代まで続く。一枚の葉の旅は地中海全体を巡っている。
料理での使い方、正しくはこうだ
シチューやカレーに入れるとき、多くの人がただ放り込んで終わりにする。正しい使い方は少し違う。葉に切れ目を入れたり、軽くもんだりすると香り成分が染み出しやすくなる。長時間煮込むと苦味が出るので、出来上がり前に取り出すのがいい。
乾燥葉を使うのが一般的だが、生葉も使える。プリンやパンプディングなど牛乳ベースのデザートとも実は相性がいい。牛乳にローリエで香りをつけてから作ると、仕上がりが上品になる。
結び
アポロンが振られた恋の痛みから生まれた聖樹が、2500年かけて世界に広まり、神話になり、石鹸になり、シチューに沈んでいる。取り出し忘れても、美味しければそれでいい。
この壮大な物語を感じながら料理をすると、いつものシチューが少し特別に感じられそうですね。この文章に合わせたイメージ画像なども必要ですか?

コメント