スペインで住宅不足は供給不足が原因か

情熱の国スペインが今、情熱だけではどうにもならない「住居の断崖絶壁」に立たされている。

バルセロナのサグラダ・ファミリアは何十年もかけて作り続けているが、市民が住むための家は一向に建つ気配がない。2026年現在、スペインの不動産市場は、もはや「高騰」という言葉では生ぬるい、構造的な破綻を迎えつつある。

なぜ、太陽が降り注ぐこの国で、人々は屋根を失いかけているのか。日本の常識では測りきれない、スペイン不動産地獄の裏側に迫ってみよう。

供給されるのは「絶望」ばかり。数字が語る残酷な現実

まずは、冷徹な数字を並べてみる。これが今のスペインのリアルだ。

2021年以降、スペイン国内で不足している住宅数は約73万戸。一方で、新しく誕生する世帯数は年間25万から30万にのぼる。対して、この1年間に市場に供給された新築住宅は、わずか9万戸程度。

小学生でもわかる。圧倒的に「足りていない」のだ。

マドリードやバルセロナ、そして太陽海岸の入り口マラガといった主要都市では、需要に対して供給が10%にも満たないエリアが続出している。家賃は過去最高値を軽々と更新し、かつての「若者が安く移住できる国」というイメージは、今や見る影もない。

過去のトラウマと、読み違えた未来

なぜここまで拗れてしまったのか。理由は一つではない。過去の傷跡と、計算違いの未来が交差した結果だ。

最大の要因は、2008年の不動産バブル崩壊という「後遺症」にある。 かつてスペインは年間60万戸もの家を建てまくっていたが、バブルが弾けた瞬間に業界は壊滅。熟練の職人は消え、銀行は不動産融資の窓口を鋼鉄のシャッターで閉ざした。その「失われた供給能力」が、15年以上経った今も回復していないのだ。

そこに追い打ちをかけたのが、予想外の人口増。 人口減少に向かうはずだった予測を裏切り、直近2年で230万人もの移民が流入した。さらに、既存の住宅は「地元の人の家」ではなく、投資家たちの「Airbnb(民泊)」へと姿を変えた。住民が住むはずの場所は、観光客が数泊するためだけのホテルへと「商品化」されてしまったわけだ。

スペインでは「投資家が買い占めているからだ!」とか「民泊が多すぎるせいだ!」といった犯人探し(需要側の抑制案)が政治的に好まれる傾向にある。しかし、政府の読み違いで物理的供給不足に陥ったことが最も大きな原因といえる。

「日本のように建てればいい」が通用しない、3つの壁

東京に住んでいると、古くなったビルが半年後には更地になり、1年後には最新のマンションに変わっている光景をよく目にする。だが、スペインでそれを期待するのは、砂漠で雨を待つようなものだ。

  1. 官僚主義という名の巨大な迷路
    スペインで建築許可を得るのは、ちょっとした冒険だ。スペインで建物を建てるための認可プロセスは、日本とは比較にならないほど時間がかかるからだ。日本では数ヶ月で済むプロセスが、あちらでは数年かかるのが当たり前。役所の審査は牛歩のごとく、デジタル化の波もどこか他人事。民間企業が「今すぐ建てたい」と叫んでも、行政の判子がもらえる頃にはブームが去っている。
  2. 電力が届かない「骨抜き」のマンション
    2026年、新たな問題が浮上している。「電力網(グリッド)のボトルネック」だ。建物は完成した。外見も素晴らしい。しかし、いざスイッチを入れても電気が来ない。インフラ整備が追いつかず、入居できない「ゴースト新築」が各地で悲鳴を上げている。
  3. 「良かれ」と思って首を絞める法律
    2023年に施行された住宅法(Ley de Vivienda)が、皮肉なことに供給をさらに絞り込んでいる。借り手を保護するために賃料を抑制し、家賃滞納者の強制退去を難しくした結果、オーナーたちは「リスクが高すぎる」と物件を市場から引き揚げてしまった。投資家も、リターンが見込めない新築プロジェクトから次々と手を引いている。

日本とスペインの構造的な違い

項目スペイン日本(東京など)
都市計画の権限自治体が強く、保守的国・都が主導し、開発に積極的
建築許可の期間数年かかることもザラ数ヶ月で完了するのが一般的
中古vs新築中古志向も強いが供給が止まっている新築至上主義で供給サイクルが速い
規制の方向性「借り手保護」が強すぎて供給が減退比較的「供給促進」で価格を抑える

結論:日本が「異能」なだけかもしれない

スペインと日本を比較すると、その構造の差は一目瞭然だ。

  • 日本: 「スクラップ・アンド・ビルド」の精神で、供給を促進して価格を抑える。
  • スペイン: 「権利と保護」を重視しすぎて、新しい石を積む手が止まる。

「借り手を守る」という正義が、結果として「借りる家がない」という最悪の結末を招いている。スペインがこの泥沼から抜け出すには、単なる増税や規制ではなく、行政手続きの破壊的なスピードアップと、ガチガチの都市計画の解体が必要だろう。

太陽の国で、普通の人々が普通に暮らせる「当たり前」の家が建つ日は、まだ遠い先になりそうだ。

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この記事を書いた人

tokaijiruのアバター tokaijiru 都会汁代表

都会汁。私は、どこにでもいて、どこにもいない。長い年月を経て、ようやく見えてきた世界の裏側と新しい日常。ここは、私が拾い集めた断片を静かに吐き出す場所。通りすがりのあなたに、何が伝わるかはわからない。

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