山本さんのきゅうりがアブラムシ被害で壊滅状態
山本さん一家は、家庭菜園できゅうりを育てていた。
春から丹精込めて育ててきた苗が、今、アブラムシの大群に覆われている。茎も葉も、びっしりだ。農薬は使いたくない。有機栽培にこだわってきた山本さんの信念だ。
しかし、もう限界だった。 「きゅうり、諦めよう」
家族全員で菜園を囲み、アブラムシをながめながら涙をこぼした。夏にはみんなできゅうりを食べようと話していた。その夢が今、静かに潰えようとしていた。
謎の男たちの登場
そのとき、どこからともなく三人の男たちが歩み寄ってきた。 「おこまりですか?」
山本さんは涙を拭いながら答えた。「ええ、アブラムシにやられて……でも、もう諦めました」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、男たちの一人が天に向かって叫んだ。 「おらたちがトコブシーズだべ!」
どこに潜んでいたのか、数千人の観客がたちまち山本さんの家庭菜園を取り囲んだ。シークレットライブ、開幕である。
平成のマリア・カラス、歌いながら牛乳をまく
ボーカルの小島助六が歌い始めた。
平成の男マリア・カラスと呼ばれるその声が、住宅街に響き渡る。しかし今日の小島は片手にスプレーボトルを持っている。中身は牛乳だ。アブラムシが最も嫌う液体のひとつである。
小島は歌いながら、きゅうりの葉にまんべんなく牛乳を吹きかけていった。高音域でのびやかに歌いながら、腰を低くしてアブラムシに狙いを定める。その姿はオペラ歌手とも農家ともつかない、唯一無二のシルエットだった。
達磨氏のドラムと、シンバルからの援軍
ドラムの達磨氏が叩き始めた。その振動がきゅうりの茎に伝わり、アブラムシが動揺し始める。職人芸のビートが、虫たちの足元を揺るがす。
そして達磨氏がシンバルを力強く叩いた瞬間、その隙間から大量のてんとう虫が傷出してきた。
頼もしい援軍である。てんとう虫たちはアブラムシの天敵だ。何百匹ものてんとう虫が、きゅうりの葉の上を縦横無尽に駆け回り始めた。達磨氏はそれを確認しながら、静かにうなずいた。
銀色の全身タイツ男、現る
キーボードの三木が登場した。全身銀色のタイツを着ていた。
アブラムシは銀色の光を嫌う。三木はその習性を利用し、銀色の全身タイツで身を包んだのだ。なんでもやる器用貧乏の三木らしい判断だった。三木はじりじりと菜園に近づきながら、アブラムシを追い詰めていった。左手にはハーモニカ、右手には銀色の反射板。吹きながら追い詰める、唯一無二の戦術だ。
そしてコンサート終盤、三木の顔色が変わった。銀色のタイツが全身を覆い、皮膚呼吸が限界を迎えていた。それでも三木は倒れなかった。
最後の力を振り絞り、残るアブラムシに向かってゆっくりと体を水平に持ち上げ、見事なV字バランスを決めた。銀色の体が菜園の上で静止した。光が反射した。アブラムシが逃げた。
三木はそのまま、静かに倒れた。救急車が来たときも、三木は担架の上でハーモニカを吹いていた。
ヒット曲「土下座するならゴザをひけ」
コンサートはいよいよ最高潮を迎えた。トコブシーズの代表曲「土下座するならゴザをひけ」の演奏が始まると、数千人の観客が一斉に沸いた。
そして観客たちは自然と菜園に向かい、一匹ずつ、丁寧に、アブラムシをつぶし始めた。誰に言われたわけでもない。音楽に乗りながら、手を動かしていた。笑いながら、泣きながら、汗をかきながら。
山本さん一家も一緒に手を動かした。
閉幕
コンサートは最高の盛り上がりの中で幕を閉じた。
きゅうりの葉からアブラムシは消えた。てんとう虫たちは満腹そうに葉の上で休んでいる。山本さんは泣いていた。今度は悔し涙ではない。
夏には、美味しいきゅうりが実るだろう。
おもてなしバンド、トコブシーズ。 次のコンサートはあなたの街かもしれません。

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