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男として生まれたからには、アルスランを目指せ
草原に土俵はない。ルールもシンプルだ。足以外が地面についたら負け。それだけ。
広大な草原に男たちがどしどしと集まり、組んで、投げて、倒す。観客席もない。フェンスもない。風と草の匂いの中で、ただ決着をつける。これがブフだ。モンゴル相撲の話をする。
ブフとは何か
「ブフ」はモンゴル語で「忍耐力」「耐えぬく力」という意味だ。競技の名前が、そのまま精神の話になっている。
起源は紀元前3世紀頃。競馬、格闘技、弓射の3種目を競い合うことから派生し、奉納儀式や軍事訓練的な要素も持っていたとされる。草原の戦士の訓練が、そのまま国技になった。
年に一度の民族の祭典、国家ナーダムで行われる。モンゴル人にとってブフは、ただのスポーツではない。男の証明の場だ。
土俵がないという自由
日本の相撲には土俵がある。円の外に出たら負け。押し出し、寄り切り、そういう決まり手がある。ブフにはそれがない。
土俵というものがなく、広い草原の上で場所を制限されることなく競技が行われる。時間制限もないため、一番の取り組みに要する時間が長いという特徴がある。
どこまで逃げても追いかけてくる。時間切れもない。ぜいぜいと息が上がっても、決着がつくまで終わらない。追い詰められてからが、本当の勝負だ。
入場の儀式が、すでにかっこいい
試合前の所作がある。
力士は獅子の体をした鷹のイメージで羽ばたきながら入場し、2回2方向に舞い降りる「シャバー」という所作で鷹と種らくだの合体を示す。
鷹でもあり、ライオンでもある存在として草原に降り立つ。これを真顔でやる男たちが、ごうごうと組み合う。草食系という言葉がへそで茶を沸かす光景だ。
称号の話。アルスランとは何者か
ブフには番付がある。ナーダムのトーナメントで勝ち上がるほど、称号が上がっていく。
ベスト16でナチン(隼)、ベスト8でハルツァガ(大鷹)、ベスト4でザーン(象)、準優勝でガルディ(神鳥)、そして優勝がアルスラン(獅子)だ。隼から始まり、大鷹になり、象になり、神鳥になり、最後に獅子になる。この称号の並びだけで、壮大な物語がある。
そしてアルスランを超えた存在がいる。1988年から1990年まで3年連続優勝でダヤン・アヴァルガ(世界の巨人)の称号を得て、さらに1992年から1999年まで8連覇を達成し、通算12度の優勝を飾った男がいる。12度の優勝。20世紀最強のブフ力士。
国民から絶大な尊敬を集め、行く先々で群衆が大きく道を譲り、大山が動くがごとく歩く姿はまさに「聖なる巨人」と呼ばれた。モーゼが海を割るように、人波が割れる男。それがアルスランの上に立つ者の姿だ。
日本の若者に言いたいこと
草食系という言葉が広まって久しい。恋愛に積極的でない、競争を好まない、傷つくことを避ける。それが悪いとは言わない。
でも草原では、そういう話にならない。組んで、投げられて、泥だらけになって、それでも立ち上がってまた組む。その繰り返しの先にしか、アルスランはいない。
モンゴルの子どもたちはブフを見て育ち、ブフに憧れ、ブフの訓練を重ねて育つ。強さへの憧れが、空気のように漂っている場所がある。
だから、ブフへ行け
モンゴルに行け。ナーダムを見ろ。
草原に男たちがどしどしと集まり、ぶつかり、倒れ、また立ち上がる光景を、自分の目で見ろ。
そしてできれば、挑戦しろ。最初は隼にもなれない。それでいい。転がされて、草の匂いを嗅いで、砂を吐いて、それがスタートだ。
アルスランは遠い。でも、草原に立たない限り、永遠に遠いままだ。

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