曲の話から始める
1970年、スティーブ・グッドマンという無名のシンガーソングライターがシカゴからニューオーリンズへ向かう夜行列車に乗った。そこで書いた曲が「City of New Orleans」だ。
1972年にアーロ・ガスリーがカバーして全米ヒット。その後ウィリー・ネルソン、ジョニー・キャッシュ、ジョン・デンバーも歌った。いまやアメリカの鉄道讃歌の代名詞になっている。
曲の語り口はシンプルだ。列車が夜のイリノイを走る。車内では老人たちがカードゲームをしている。車窓には廃屋と墓地が流れていく。そして繰り返されるフレーズ。
Good morning, America, how are you? Don’t you know me, I’m your native son.
消えゆく鉄道への挽歌として書かれた曲だが、逆説的に列車を不滅にした。アムトラックは1981年に、この曲の人気にあやかろうとして列車の名前をCity of New Orleansに復活させたほどだ。
曲が列車を救った。
列車はどんな路線か
シカゴとニューオーリンズを結ぶ934マイル(約1,500km)の路線。所要時間は約19時間半。主要停車駅はシャンペーン=アーバナ、カーボンデール、メンフィス、ジャクソン。
シカゴの世界水準のブルースシーンから、メンフィスのビール・ストリート、ミシシッピのデルタ地帯を抜け、ジャズ発祥の地ニューオーリンズへ。ルイ・アームストロング、ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、エルヴィス・プレスリーの影を追いながら走る路線だ。
地図で見るとアメリカの背骨を縦断している。音楽の聖地を串刺しにした路線、と言っていい。
乗り方と時刻
シカゴ発は毎日午後8時05分。夜に乗り込んで、翌日の午後にニューオーリンズ着。
逆方向、ニューオーリンズ発は午後出発でシカゴには翌朝着く。
夜に乗り込んで落ち着いたら、翌朝には全く違う場所にいる。初めてアムトラックに乗る人にも、このルートはちょうどいい難易度だ。
チケットの買い方
アムトラックの公式サイト(amtrak.com)でクレジットカード購入できる。日本のカードでも問題ない。
座席は大きく二種類。コーチ席はリクライニングシートで足元が広い。早めに予約すれば片道100ドル前後から取れることもある。
ルーメットと呼ばれる個室寝台もある。プライバシーと快適さが欲しければこちら。料金は上がるが、食事が個室に運ばれてくるサービスもある。
20日前以上の早期予約で大幅に安くなる。1月が最も安く平均147ドル程度、11月は高くなる傾向がある。
車内の楽しみ方
サイトシーアー・ラウンジと呼ばれるパノラマ窓の展望車両がある。ここに陣取って流れる景色を眺めるのが一番の贅沢だ。
ハイライトは夜明けのミシシッピ。綿花畑と小さな町が朝霧の中から浮かび上がってくる。
そしてルイジアナに入ってからのポンチャートレイン湖の橋。世界最長クラスの橋で、展望車の上から眺めると水の上を走っているような感覚になる。
メンフィスでは乗降のために短い停車がある。ホームに降りて伸びをして、また乗る。その瞬間に「グッドモーニング、アメリカ」と言いたくなる。実際にアーロ・ガスリーの歌を引用しながらメンフィスのホームで叫んだ旅人がいたという。
終着駅の話
ニューオーリンズに着いたら、そのままフレンチ・クォーターへ歩いて行ける。駅からセントラル・ビジネス・ディストリクトのホテルまで歩いて15分以内だ。
夜の列車を降りて、バーボン・ストリートへ向かう。ジャズが聞こえてくる。ベニエとカフェ・オ・レで朝食をとる。
グッドマンが歌った列車は今も走っている。消えるどころか、まだここにある。

コメント