あのリフの話。ギターが鳴る。ざらっとした、少し不穏な、でも妙にかっこいいリフ。そしてスティングが叫ぶ。Roxanne——
誰でも知ってる。でも曲の中身を知ってる人は意外と少ない。歌詞の中身はこうだ。娼婦に恋をした男が、「頼むから仕事をやめてくれ」と懇願している。それだけだ。
暴力もない。脅しもない。ただひたすら、必死に、純情に、「君は体を売らなくていい」と繰り返す。あのパンクとレゲエが混ざった攻撃的なサウンドの中に、中学生の日記みたいな内容が入っている。ロックの皮を被った、シャイな告白だ。
生まれた夜の話
1977年10月、ザ・ポリスはパリでザ・ダムドと対バンするために、オランダからシトロエンで移動してきた。前夜、バンドはそれぞれ別々に街へ出た。スティングはパリの路地をうろうろしながら、ホテル近くの娼婦たちを眺めていた。
「街頭で売春婦を見たのは初めてだった。彼女たちは本当に美しかった」とスティングは後に語っている。「頭の中でメロディーが浮かんで、そのうちの一人に恋をした自分を想像した」
ホテルに戻ると、ロビーのよれよれのポスターが目に入った。エドモン・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」のポスターだった。主人公が片思いする女性の名前が、ロクサーヌだった。名前が決まった。スティングはその夜、曲の骨格を一気に書いた。
タンゴになった理由
スティング本人はボサノバとして構想していた。タンゴのリズムにしようと提案したのはドラマーのスチュワート・コープランドだった。
ボサノバのままだったら、また全然違う曲になっていた。あのタンゴのグルーヴがあるから、切迫感と哀愁が同居する。コープランドの判断は正しかった。
冒頭の謎の音の正体
曲の最初に、ばしゃんという音と笑い声が入っている。
スタジオで録音中、スティングが気づかずに蓋の開いたピアノの上に座ってしまった。不協和音が鳴り、スティングが笑い出した。テープは回っていた。バンドはそのまま残すことにした。
ロック史に残る名曲の冒頭が、お尻で鍵盤を踏んだ音だ。
BBCに放送禁止にされた
1978年にリリースされたが、BBCはこの曲の放送を拒否した。娼婦を題材にしているという理由だった。
スティングは激しく反論した。「セックスの話は一切ない。わいせつな要素は何もない。売春婦を題材にしているというだけで放送禁止にした」
バンドは「BBCに放送禁止」と書いたポスターを街中に貼って対抗しようとした。でも効果はなかった。
テキサスの一人のDJが救った
イギリスではまったく売れなかった。ところがアメリカでツアーを始めると、テキサスの一つのラジオ局がこの曲をかけ始めた。
そこからボストンのWBCNに伝わり、DJのオイディプスが大量にオンエアした。一人のDJが曲の運命を変えた。
アメリカでの成功を受けてイギリスでも1979年に再リリースされ、UKチャート12位を記録。ザ・ポリス初の本格的なヒットとなった。
ムーラン・ルージュとの出会い
2001年のバズ・ラーマン監督映画「ムーラン・ルージュ」でこの曲が使われた。タンゴ「タンゲーラ」と融合した「エル・タンゴ・デ・ロクサーヌ」として。メッセージは「自分を売る女に恋をしてはいけない」。
パリの路地裏で生まれた曲が、パリを舞台にした映画で蘇った。
結局この曲は何なのか
あのリフを聴くと、誰もが体を揺らす。攻撃的で、性的で、危険な匂いがする。でも中身は純情な懇願だ。「頼むから、やめてくれ。君はそんなことをしなくていい」
スティングが路地裏で美しいと思った女性への、不器用で真剣な愛の言葉。ロックが一番かっこいいのは、こういう瞬間かもしれない。

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