まずひとつ聞かせてほしい。あなたは今、オブラートというものをどう認識しているか。薬を包む、あの半透明の紙みたいなやつ。それ以上でもそれ以下でもない、と思っていないか。それは認識が甘い。今日はオブラートについて本気で語る。
エントリーNo.1 硬質オブラート(ドイツ発祥) オブラートの起源はドイツのキリスト教のミサで使われる祭壇に供えるウエハースに似た丸い小型の軽焼きせんべいで、薬を服用する際に使ったのが始まりとされる。神の儀式から生まれた。これはもう格が違う。水に浸して柔らかくしてから薬を包む、古典的な様式美だ。手間がかかる分、使う者に覚悟を要求する。これはオブラートの祖先、レジェンドだ。
エントリーNo.2 山元オブラート(東京、1916年創業) 現在の薄型オブラートを開発したオブラートメーカーで、菓子用オブラートではシェア7割を占める。菓子の世界を7割押さえているというのは、要するにあなたが食べてきたボンタンアメ、水飴、ゼリー菓子のほとんどはこの会社のオブラートに包まれていたということだ。縁の下の力持ちにして業界の帝王。渋い。
エントリーNo.3 瀧川オブラート(愛知県新城市、1911年創業) 国内で生産されるオブラートの8割をこの一社で作っており、海外ではほとんど生産されていないため、世界のオブラートのほとんどを愛知県新城市の瀧川オブラートが生産していることになる。待ってほしい。世界のオブラートのほとんどが愛知県新城市から生まれているということだ。世界征服をしている会社が山の中にある。しかもフクロ型オブラートでは国内シェア90%。静かすぎる覇者だ。
エントリーNo.4 伊井化学工業(北海道倶知安町、1942年創業) 北海道一の馬鈴薯産地・倶知安で生まれ、北海道産馬鈴薯でんぷんを原料とするオブラートを作り続ける、日本一のシェアを誇るメーカー。雪深いじゃがいもの産地で、じゃがいもからオブラートを作っている。農業と製造業が一体になった、北の大地の誇りだ。
優勝は誰か。悩んだ。全員に貫禄がある。しかし都会汁が選ぶキングオブオブラートは——瀧川オブラート。理由はひとつ。世界のオブラートのほとんどが愛知県の山の中から来ているという事実の、あまりにも静かな偉大さだ。誰も知らない。当人たちもあまり言わない。それがいい。
オブラートの意外な使い方 薬を包む以外に、オブラートにはまだ顔がある。オブラートで食材を包んで油で揚げるとサクサクの食感になる。肉団子を包んでスープに入れるとツルンとした食感で旨みが閉じ込められる。また唇にリップを塗ってからラップ代わりにオブラートをのせてパックすると、食用なので寝てしまっても問題ない。
さらに。オブラートに油性マジックで文字やイラストを描き、水にそっと浮かべると、油性ペンで描いた部分だけ溶け残って文字や絵が水に浮かび上がる。これは何かというと、消えるラブレターが書ける。水に落とした瞬間に文字が宙に浮かび上がり、やがて消える。プロポーズに使った者がいたとしたら、それは人類史上最もロマンティックな告白だ。
食用としてのオブラートを使用した料理が2013〜2016年度版、2017〜2020年度版ミシュランガイドで3つ星を獲得している。三重県の医師が正月に寒天をこぼしたことから生まれたあの薄膜が、ミシュランの三つ星に辿り着いている。
新たなオブラートの提示 最後に、都会汁から新しいオブラートの使い方を提案する。オブラートに食用ペンで文字やイラストを描き、舌に貼る。舌タトゥーだ。使い方はシンプルだ。好きな文字を描いたオブラートを舌に貼り、相手の前であっかんべーをする。
相手はぎょっとする。なんだこいつ、宣戦布告か、と身構える。しかしそこに広がっているのは「I LOVE YOU」の文字だ。攻撃的な動作から一転、愛の告白。高度8000メートルから急降下して敵陣に突っ込むかと思いきや、投下されたのはバラの花束だった。さながら恋の急降下爆撃機。
しかもオブラートはすぐに溶ける。証拠は残らない。見た者だけが知っている、消えゆく愛の告白だ。デンプンと水だけでできた薄い膜が、人類の恋愛史に新たな1ページを刻んだ。

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