今ではAIで簡単に文書が書ける時代になった。ビジネスメール、企画書、スピーチ原稿——あらゆる文章をAIが瞬時に仕上げてくれる。
だが、待ってほしい。AIを使うべき場面と、そうでない場面があるのではないか。厳粛であるべき場面、人間の言葉でなければならない場面というものが、この世には確かに存在する。たとえば、遺書などは——
銭亀守銭奴之助、享年九十三歳。臨終の床で家族を呼びつけた老人は、点滴の針を腕に刺したまま、しわがれた声でこう言った。「金庫の番号は墓場まで持っていく。遺書は机の引き出しだ」。そして静かに目を閉じた。
家族たちは顔を見合わせた。長男の目が光った。次女がスマホを握りしめた。三男は既に電卓を起動していた。
葬儀もそこそこに、一家は書斎へ駆け込んだ。引き出しを開けると、厳重に封印された封筒が一通。表書きには「遺書 銭亀守銭奴之助 直筆」とある。長男が震える手で封を切った。
「みんな聞いてくれる?超大事なこと言うね🌸 正直に言うと、この遺書、AIに書いてもらったんだ😂ギャルプロンプトで頼んだらまじノリノリになっててワロタ。すマンモス🙏 まず医者に余命あんまないって言われてさ、ほんと萎え。まじ萎え。九十三まで生きといてまだ余命とか言われる意味わからんくない?🤔 でもゆっくり聞いて。 財産だけど、全部慈善団体に寄付したから😇みんなにはマジ1円も残してないよ!!うちの人生でいちばん⤴️⤴️な決断かも✨ みんなが遺産ほしそうなの、モロバレでワロタ🤣ぴえんこえてパオンだわ。九十三年生きてきて、それくらい読めるっての。 介護してくれた長男のお嫁さんだけ、タンスの奥の茶封筒ね。中身見てびっくりしてや😉 みんな、遺産とか気にしすぎ!もっと自分の人生生きてよ!! うちはガンダで涅槃いくし✌️悔いなし!! それと言い忘れてたけど愛してるよ、まじで🥺 成仏なう🕊️ #遺書 #終活 #感謝しかない #銭亀守銭奴之助」
家族は全員、しばらく動けなかった。三男の電卓が、静かに床に落ちた。

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