せっかくのカンボジア旅行、あこがれのアンコールワット。しかし雨季のシェムリアップは、突然の豪雨に見舞われることがある。「雨が降ったらホテルで一人でUNOでもするしかないか……」待ってほしい。雨でこそ真価を発揮する場所がある。タプローム遺跡だ。
まず、あの場所を正確に言い表す言葉を探してみる。サイバーパンクはテクノロジーと退廃が融合した世界観。スチームパンクは蒸気機関と産業革命の美学。ソーラーパンクは自然と未来技術が共存する理想郷。
ではタプロームはなんと呼ぶべきか。あえて表現するならルーインパンク(Ruinpunk)だろう。廃墟と自然が互いを侵食しながら、どちらが主役かわからなくなってしまった世界。
遺跡に絡みつく巨大なスポアン(ガジュマル)は樹齢300〜400年。巨石を締め付けるその姿はまるで大蛇のようだ。石が木を支え、木が石を喰い、それでもふたつは一体として立っている。「巨大な樹木は遺跡を破壊しているのか、それとも支えて共存しているのではないか」という問いは、今もユネスコで議論が続いている。
答えが出ないまま、木と石は数百年間抱き合い続けている。2001年、アンジェリーナ・ジョリー主演の映画「トゥームレイダー」のロケ地に選ばれたのがここだ。セットでは作れない。CGでも出せない。あの空気はあそこにしかない。
雨が降ると、タプロームは変わる。 石が黒く濡れ、ガジュマルの根が艶を帯びる。苔がいっせいに緑を深める。女神デバターのレリーフが雨に洗われて浮かび上がる。晴れた日のタプロームは美しい。しかし雨のタプロームは、生きている。
せっかくのカンボジア旅行を、1人UNOで終わらせるのはあまりにも愚かだ。雨のタプロームを歩き、濡れた石の匂いを吸って、ルーインパンクの世界を全身で受け取ったら、その夜はパブストリートへ。
キャッチコピーは「MY COUNTRY, MY BEER」。カンボジアNo.1のアンコールビールを、ライムと黒胡椒と塩のディップソースで食べるロックラック(牛肉のサイコロステーキ)と一緒に。雨に濡れた体に、冷えたビールが滲みる。

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